ミライ先生の日直日誌

~Ms.Mirai's Day Duty Journal~

ポケモン小説『白黒遊戯』第20話 痴話喧嘩

 路上ライブをしたら、謎の青年を泣かせてしまった。自分の演奏で誰かを泣かせたのは初めてだ。ノエルは慌ててバッグの中を漁る。

「大丈夫!?ティッシュティッシュ……ああん、もう!チェレンならすぐ出せるのに!」

 そう言いつつなんとかポケットティッシュを取り出しNの手に握らせる。だがNは動かず涙を流し続ける。仕方なくノエルはまたバッグを漁り、ハンカチを取り出した。

「もう……涙ぐらい自分で拭きなさいよ。」

 ノエルはNの目元をハンカチでごしごし拭く。鼻水はティッシュで拭き取った。だが涙も鼻水も次から次へと出てくる。呆れたノエルはティッシュをNの鼻に当てた。

「もう!鼻チーンして!」

 言われた通りNはティッシュに鼻水を出した。ノエルは汚れたティッシュを丸めてNのズボンのポケットに突っ込んだ。Nの顔が赤くなっていたが、泣いたせいなのかノエルが強く拭いたからかわからなかった。

「あんたハンカチとティッシュ持ってないの?」

…………。」

「しょうがないわね〜。ドラッグストア行きましょ。」

 ノエルは返事も待たずNの手首を掴んで歩き始めた。

 

✳︎✳︎✳︎

 

 なんとかドラッグストアを見つけ、ノエルは品を物色する。ポケモンたちはボールから出したままだ。

「何買おっかな〜?水?でも水道水ならタダだし……。」

 ノエルはティッシュとハンカチを探すついでに気になる商品をチェックしていた。Nは黙って辺りを見渡している。

「わ〜。これ高そう。カロス地方のおいしい水?ベルなら買うかも。コーラ……を買ったら不健康だってチェレンに怒られそう。Gatoradeゲータレード)ならいいかな?スポドリだし。」

 ノエルはぶつぶつ言いながら品定めをする。買い物に夢中でNのことを忘れてしまいそうだ。

「ノエル。これは何?」

「へ?」

 Nが指差したものは……精力剤だった。よく見たらスポーツドリンクの隣りは違う飲み物コーナーになっており、小さいポスターには「あなたの役に立つ!」「あなたの夜をサポート!」と書かれていた。

「ぎゃーーー!!」

 気まずくなったノエルは慌ててNの背中を押す。ツタージャモグリューワシボンは買い物かごを持って2人を追いかける。

「どうしたの?」

べべべべべ別に?」

 早足で歩くノエルは自分たちがどこへ向かっているかもわかっていない。

「さっきの飲み物……役に立つって書いてあった。」

「いや、立つけど!立っちゃダメなの!!」

「成分を見るとおそらく興奮剤……ポケモンバトルに使う物?」

「いや……あれは……人間用……。」

 ノエルは口籠る。いくらませたノエルでも、Nに「あれは人間が夜のバトル(?)に使うものです」とは言えなかった。恥ずかしすぎる。

 

 我に返るとノエルは自分たちが生理ナプキンを売ってるエリアにいることに気づいた。ナプキンだけでなく生理用ショーツも売っている。さっきの精力剤ほどではないが気まずい。ついてきてくれたポケモンたちとNには悪いがそこを離れようとした。しかしその前にNに話しかけられた。

「そういえばこれ……君のか?」

 Nはポケットからとんでもない物を取り出し両手で広げた。それは青少年が持っていてはいけない禁断のカルマ……黒いスケスケの紐パンだった。

「ぎゃーーー!!」

 ノエルは反射的にNの手から紐パンを奪った。しかし叫んだのはまずく、周りの人たちの注目を集めてしまった。素早く紐パンを隠したものの、品出し中のおばさん店員に見られてしまった。怪訝な顔でノエルとNを見ている。

「ちょっと!どうしてあんたがそれを持ってるのよ!?」

「ヤグルマの森で落ちていた。」

「やめて!それじゃあ私たちが野外プレイしたみたいに聞こえる!!」

 小声で話せばよかったのについ声を荒げてしまう。周りにいる人を誤魔化すためノエルは話を誤魔化そうとした。

「野外プレイ?」

「あ〜……野球をするならやっぱり屋外よね〜!」

 自分で野球と言ったのに意味深に聞こえるのはなぜだろうか。今は何を言ってもエロ関係にしか聞こえない気がする。

「そ、それより私お腹空いちゃった〜。早く行きましょ、ダーリン

「タジャ!?」

 動揺したノエルはなぜか思い出したようにとってつけたような彼氏設定で話し出す。自分でもやっていることの半分は理解できない。まだ何も買ってないのにノエルはNの腕を組んで入り口まで誘導しようとする。ツタージャは怒ってNの脚をポカポカなぐる。モグリューワシボンと話しながらついてきた。

 しかし大人しく見えて実は知的好奇心が強いNは新たな商品を手に取る。

「これはなんだ?初めて見る。」

「ぎゃーーー!!」

 細長い小さい箱は反射的に叩き落とされた。

 真っ赤になったノエルはNを両手で押した。勢いよく押されたNはタイミング良く開いた自動ドアを進み倒れた。ドアから入ろうとした客はNを避けたが、何が起きたかわからずポカンと見ていた。外にいる人たちもNを見ている。

「もう!あんたなんか知らない!!」

 ノエルはNを置いて走り去った。ポケモンたちはNには目もくれず主人を追いかけた。

 

 一方、店内ではさっき品出しをしていたおばさん店員が呆れて細長い小さい箱の商品を拾う。

「まったく……これだから最近の若い子は….…。」

 店員は商品に息をかけ埃を飛ばし、元の場所に戻した。

「今度またあのカップルが来たらコンームでも勧めようかしら……。手遅れじゃなければいいけど。」

 Nが手に取った商品は[妊娠検査薬]だった。