ミライ先生の日直日誌

~Ms.Mirai's Day Duty Journal~

ポケモン小説『白黒遊戯』プラズマ・スキャンダル!その1

 ここはプラズマ団本部。ポケモンを解放するべくプラズマ団が日夜問わず活動している。トップの七賢人はもちろん下っ端たちも日々努力している。

「はぁ……。」

 小部屋で1人の団員がため息をつく。シッポウシティ博物館の任務で下っ端のグループリーダーを勤めていた男だ。伝説のポケモンと思われる化石を一時手に入れたものの、ヤグルマの森で野蛮な女に奪還されてしまった。森林戦で撹乱され惨敗。何の成果も上げられずノコノコ撤退することになった。

 いや、一応手に入れた物はある。だがこれを戦利品と言っていいか微妙である。彼は机に置いた物を複雑な顔で見る。そこには黒いうっすら透ける生地で作られた紐パンがあった。彼はポニーテールの少女に言われたことを思い出す。

「そんなにほしけりゃくれてやるわよ!!」

 奪われた化石の代わりに投げつけられた物がこれである。つい反射的にキャッチしてしまった。おかげで女の団員にヘンタイと言われ、あれ以来、他の女の団員たちにも白い目で見られるようになってしまった。

 報告書を書きながらパソコンの隣りにある紐パンをチラッと見る。前は逆三角。裏はTバック。……エロい。シンプルにエロい。これをあの少女が穿いていたのか?

 ダークブラウンのポニーテールの少女。歳は1516か?女子高生特有の最強感がある。スリムな体に健康的な肌。そして憎たらしいことにかわいいのだ。

 勝ち気な顔は自信で溢れている。「私かわいいですけど何か?」と余裕を感じる。絶世の美女ではないが不思議な魅力がある。

 もしあの紐パンを投げたのがブスな女だったら「誰がこんなもんいるかっ!」と地面に叩きつけていた。だがかわいかったので動揺してしまった。俺が紐パンを握りしめたままと気づいたのは撤退した後だった。

 パソコンの画面を睨む。どう報告すればいい?ありのまま起こったことを伝えるべきだろうか?化石を奪われたあとJKに紐パンを投げられたため動揺して負けた、と。証拠に紐パンも一緒に提出して……駄目だ。信じてもらえるか怪しい。仮に信じてもらえても情けない。

「はぁ……。」

 さっきからこの調子だ。入力しては削除し、ため息をつく。

 

ーコンコン。

 

 ノックが聞こえ俺は慌てて紐パンを引き出しにしまう。

「隊長、おつかれさまです。」

 部下の男が2人入ってきた。俺は隊長としての威厳を保つため背筋を伸ばす。

「任務で使う道具の在庫表です。」

「ご苦労。」

 部下の1人から紙を受け取る。報告だけなら1人で十分だ。なぜもう1人はついてきたのだろう?視線を向けたらぎょっとした。ぽっちゃりした部下は引き出しからはみ出た紐を凝視していた。

「隊長……その紐は……?」

 こいつストレートに訊きやがった。あの場にいた者ならこれが何なのかわかるはずだ。見て見ぬフリくらいしろ。

「あ……ああ。例の物だ。上に提出するかどうか迷ってる。」

 本当はすぐにでも手放したかったがそうはいかなかった。本部のゴミ箱に捨てたら俺が誰かの紐パンを盗んだか、俺が紐パンを履く趣味があると勘違いされてしまうかもしれない。やはり上には提出せず外に出たとき適当なゴミ箱に突っ込むべきだろうか?……つーかなんでこいつはさっきからずっと紐パンの紐をギンギンした目で見てんだ!?

「隊長……それ、見せてもらってもいいですか?」

「あ、ああ……。」

 下手に出すのを渋ると俺が紐パンに執着してると勘違いされちまう。俺は平静を装い紐パンを机の上に置いた。断じてぽっちゃり部下の眼力に気圧された訳じゃない……

 ぽっちゃり部下は紐パンを凝視した。……俺の顔を見たのは最初だけな気がする。こいつ紐パンしか目に入ってねえ……

「隊長……その紐パンどうするつもりですか?」

 こいつ堂々と紐パンって言いやがった。もう1人のまともそうな部下は気まずそうに俺を見る。

「上に報告書と一緒に提出するか迷ったが……信頼を失いそうだから捨てることにした。」

 うん。捨てる。マジで捨てる。絶対捨てる。こいつ見て即決したわ。

「隊長……オレに任せてくれませんか?」

 いや何を??

「オレが隊長の代わりに処理します!」

「別の物を処理するように聞こえるんだが!?」

「大丈夫です!ちゃんと再利用……じゃなくて捨てます!」

「俺にはお前がそれをReduce, Reuse, Recycle(減らす、再使用、再利用)する未来しか見えないんだが!?」

「隊長……なんて嫌らしいことを考えてるんですか!?見損ないました!」

「嫌らしいこと考えてるのはお前だろ!見損なったはこっちのセリフだ!!」

「ちゃんとオレの目を見て判断して下さい!」

「欲望で濁ってる!!」

 あの少女の目はあんなに真っ直ぐで澄んでいるというのに……

「オレをヘンタイと決めつけるなんて偏見です!」

「偏見じゃなくて事実だろう!!」

「隊長が紐パン持ってても宝の持ち腐れです!おれならもっと有効に使います!!」

「ついに本音を出しやがった!!」

 そいつは俺とおろおろする部下を横目に紐パンを奪い取った。

「うおおおおおお!!」

 ドアから出ようとするそいつを俺たちは咄嗟に止めた。別にあの少女に同情した訳じゃない。少女の紐パンをおかずにするのは人として間違ってると思っただけだ。

「やめろ!お前ヘンタイと呼ばれていいのか!?」

「うるさい!オレは自分の欲望に忠実に生きるんだ!」

「なんのためにプラズマ団に入ったんだ?!」

「そんなの忘れた!今のオレは紐パンのことしか考えられない……!」

「紐パンから離れろよ!!」

 ぽっちゃり部下をなんとか2人で取り押さえる。開いたドアの前で手足をバタつかせる3人の男の姿は滑稽かもしれない。

「2人とも落ち着いて下さいよ〜!」

 そう言った直後まともな部下はぽちゃ男に顔を殴られる。理不尽だ。俺がぽちゃ男の腕を後ろに拘束していると廊下で誰かが通りかかった。

……何をしている?」

 そのお方を見て俺たち3人は青ざめた。

「N様……っ!」

 カリスマを持つ長い緑髪の美青年を前に俺たちは反射的に片膝をつく。プラズマ団の王、N様。しかしこんな時でもぽちゃ男は紐パンを力強く握りしめていた。……執着しすぎだろ!

…………。」

 あろうことかN様の目にぽちゃ男の手からはみ出た紐パンの紐が映ってしまった。

「それは……?」

「これは紐パンです!」

 ぽちゃ男は堂々と答えた。いや、なんで馬鹿正直に答えるんだよ?!N様のような高貴なお方に紐パンという低俗(?)な物を見せてしまい申し訳ない。ぽちゃ男が黙っていれば「これは眼帯です」と誤魔化せたかもしれないのに。

「紐パン……?」

 浮世離れしたカリスマ王は紐パンをご存知ないようだ。正直、今からでも「眼帯です」と誤魔化そうか迷った。ぽちゃ男が余計なことを言う前に話題をそらすことにした。

「ある少女にヤグルマの森で投げつけられました。しかし我々には不要な物なので処分することにしました。」

……ノエル・ピースメーカー?」

 話題をそらすことに成功したようだ。N様の関心は少女に移った。

「いえ、名前までは……。あ、でもそんな名前で呼ばれてたような……。」

 ヤグルマの森での出来事を思い出していたらN様が手を差し出した。

「それ……僕が預かる。」

「えっ!?」

 こんな卑猥な物をN様の手に!?N様は紐パンを何に使う物かわからないはずだ。何を考えているか表情から読み取ろうとしたが、いつも無表情なのでわからない。少なくともぽちゃ男と違って汚らわしいことはしないはずだ。

 俺たちのような下っ端が王に逆らえるはずがない。ぽちゃ男は渋々それをN様に渡した。N様はそれをそっとハンカチで包みポケットにしまった。そして何も言わずに去ってしまった。